医療関連裁判とは

医療事故

手技ミス事案

齋藤 健太郎
弁護士
齋藤 健太郎

《合併症とミス》

 手術によって予期しない大量の出血をして患者が亡くなったり,本来切るべきではないところを切って後遺症が残ったりすることがあります。もっとも,手術にはリスクがつきものですので,手術の結果の全てに医師の法的な責任が認められるわけではありません。たとえば縫合不全などは防ぎようがない場合も多く,手術に伴う「合併症」として責任が認められないことが多いとされています。

 一方で,注意をして慎重に手術を確認していればそのような結果を避けられたという場合もあり,その場合には過失(ミス)が認められます。責任を求める側は合併症ではなくミスなのだということを主張していかなければなりません。

 なお,手術の同意書は医師が患者にリスクを説明したことを示すものとして重要な書類ではありますが,その同意書だけで全ての結果について責任を免れるというものではありません。手技ミスがあるとされた場合には同意書があっても医師は責任を負うことになります。

《手技ミスの判断》

 手術の悪い結果が,合併症に過ぎないのかそれとも医師の手技ミスなのかという点については,通常ではあり得ないようなことが起きた場合にはそこまで難しくありません。たとえば肺を手術している際に心臓にメスを入れてしまったような場合にはミスがあることは言うまでもないでしょう。しかし,そのような分かりやすいミスの場合以外では,何が起きたのかを証明することが必要になります。ところが,手術の全てについて動画が撮影されているような場合でない限り(場合であっても),手術をした医師も何が起きたのかよくわからないということがあり得ますし,場合によっては何が起きたのかを知っていても隠すということもあります。そのため原因や経過を直接主張していくことは簡単ではありません。
 そこで,手技ミスの場合には,様々な事情を踏まえて,医師に過失があるかを確認していく作業が必要になります。たとえば手術をした部位と損傷した部位の位置関係,手術前にどの程度その悪い結果が生じることが予想されていたか,他の想定される原因がないかなどを基礎に,ケースバイケースで判断しなければなりません。このような事情に相手からの反論が説得力のあるものかを加えて過失があったのかどうかが判断されることになります。裁判所に認めてもらえるレベルの事情があるかどうかは,医師に意見を求めてもわかるとは限らず,医学的な知識を基にした弁護士による深い検討と経験に基づいた判断が求められます。

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