判例集

医療事故

判例情報・出典
名古屋地裁平成26年9月5日判決 認容額1億3675万2803円

神村 岡
弁護士
神村 岡

患者(被害者)の属性

胎児 38週4日で分娩

判例要旨

被告市の開設する被告病院において重症新生児仮死の状態で出生した原告X1に脳性麻痺等の後遺症が残ったことにつき、原告X1及びその両親である原告X2らが、被告市に対し、診療契約上の債務不履行に基づき、損害賠償を請求した事案において、被告病院の担当医師による陣痛促進剤の投与に関し、注意義務違反は認められないが、担当医師及び助産師には、分娩監視に係る注意義務違反が認められ、その結果、原告X1は、出生するまでの約48分間胎内で胎児機能不全の状態に置かれていたというべきであり、この間に原告X1の脳性麻痺が発症したと推認するのが相当であり、担当医師及び助産師の分娩監視に係る注意義務違反と原告X1の脳性麻痺との因果関係が認められるとして、原告らの請求の一部を認容した事例

争点

(1)  プロスタルモン・F(陣痛促進剤)投与の判断に係る注意義務違反の有無
 (2)  プロスタルモン・F投与量に係る注意義務違反の有無
 (3)  分娩監視に係る注意義務違反の有無
 (4)  蘇生措置に係る注意義務違反の有無
 (5)  因果関係
 (6)  損害

重要な判示(過失)

【争点(3)(分娩監視に係る注意義務違反の有無)について】

  (3)  一五時四〇分頃の注意義務違反

  原告は、一五時四〇分頃から、基線細変動の減少ないし消失を伴う高度遅発一過性徐脈が現れてきたのであるから、被告病院の助産師及びB医師は、いかに遅くとも、この時点で、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があったと主張する。

  証拠〈省略〉によれば、一五時四三分頃及び一五時四五分頃に遅発一過性徐脈と評価し得る徐脈が認められる。その時点における基線細変動であるが、基線を読むためには、本来、一過性変動の部分を除き、その部分が少なくとも二分以上続かなければならないところ(前提事実(3)ア(ア))、一五時四〇分頃の原告X1の胎児心拍数図においては、一過性変動の部分を除いて二分以上続いている部分がなく、正確に基線を読むことができないほどに徐脈が頻発しているということができる。そして、その波形の様子は、一五時四〇分までのものとは様相が異なり、明らかに振幅の程度が減少している。このように、遅発一過性徐脈と評し得る徐脈が複数回発生し、かつ、基線細変動の状態にも異常が生じていることに照らすと、被告病院の助産師及びB医師は、遅くともこの時点で原告X1の胎児機能不全を疑い、少なくとも母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があったと認めるのが相当である。

(4)  一五時四五分の注意義務違反

  原告は、一五時四五分頃には、基線細変動の減少を伴う二回目の遅発一過性徐脈が出現していたのであるから、被告病院医師は、遅くとも、この時点で、急速遂娩(緊急帝王切開)を実施すべき注意義務があったと主張する。

  一五時四〇分頃から一五時四五分頃の所見に照らし、被告病院の助産師及びB医師には、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があったというべきことは、上記認定のとおりである。そして、母体の体位変換や陣痛促進剤の投与停止等により原告X1の状態が改善しない場合には、被告病院の助産師及びB医師としては、一五時四五分頃の時点において、急速分娩の処置をとるべき注意義務があったと認めるのが相当であり、また、そのような処置を行うことも十分可能であったというべきである。

重要な判示(因果関係・損害)

被告病院の助産師及びB医師が、一五時四五分頃の時点で、適切に原告X1の胎児心拍数図等を監視し、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行い、状態が改善しない場合には急速分娩に踏み切るという注意義務を果たしていれば、一五時四五分に近接した時間において原告X1の上記胎児機能不全は解消された高度の蓋然性があるというべきである。

  被告病院の助産師及びB医師が上記注意義務を怠った結果、原告X1は、一六時三六分に出生するまで約四八分間胎内で胎児機能不全の状態に置かれていたというべきであり、この間に原告X1の脳性麻痺が発症したと推認するのが相当である。

弁護士からのコメント

胎児心拍数図は、胎児の状態を外から把握するための極めて重要な手がかりとなります。
ガイドラインも整備されていますが、見落としや安易な判断により胎児の危険な徴候に気づけず、あるいは対応が遅れ、重い後遺障害や死亡という結果につながってしまう事例があります。

本件のように、病院側が責任を否定していても交渉や裁判を経て賠償が認められる事案もあります。不幸な結果が生じてしまった場合、病院側の説明を鵜呑みにせず、まずは一度弁護士へ相談されることをお勧めします。

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