判例集

医療事故

判例情報・出典
神戸地裁判決令和元年7月11日 内視鏡検査時の大腸壁穿孔

神村 岡
弁護士
神村 岡

患者(被害者)の属性

本件事故当時,80歳(昭和8年生まれ)の男性であり,狭心症や糖尿病の治療のため,被告クリニックに通院していた。

判例要旨

医療法人社団である被告Y1クリニックを受診し、被告Y2による大腸内視鏡検査を受けた原告が、被告らに対し、被告Y2は同内視鏡検査を実施するに当たり、原告の大腸壁等を損傷させないよう検査をすべきであったのに、これを怠り、原告の大腸壁を穿孔したため、原告はS状結腸穿孔による人工肛門の造設を余儀なくされたと主張して、被告Y2に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求として、被告Y1クリニックに対しては、医療法68条(平27法74号改正前)の準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、連帯して、1964万6221円の支払を求めた事案

争点

本件の争点は,損害及び因果関係(争点)並びに既払金の控除の可否(争点)である。
特に本件事故と誤嚥性肺炎及びこれに基づく長期臥床による廃用との因果関係が争われた。

重要な判示(過失)

争いがなかった。

重要な判示(因果関係・損害)

 (1)  本件事故と誤嚥性肺炎及びこれに基づく長期臥床による廃用との因果関係
  前記1(2)アの医学的知見を前提とし,同(3)エないしカで認定した事実によれば,原告は,本件事故により生じた下部消化管穿孔への治療として,S状結腸部分切除術及び人工肛門造設手術を受け,その後,感染コントロールがうまくいかなかったことから経口摂取が進まず,体力が低下し,誤嚥性肺炎にり患したことが認められる。そして,前記1(2)アの医学的知見によれば,80歳以上の高齢者が消化器外科手術を受けた場合の呼吸器合併症の発生率は80歳未満の者に比して高く,これに加えて,消化器外科手術後は,ADLの低下により経口摂取が不可能となる例が相当数認められる。

  そうすると,高齢者において,消化器外科手術を行った場合,経口摂取が進まずに体力が低下すること及び誤嚥性肺炎を含む呼吸器合併症を発症することは通常生じるものといえ,原告が本件事故当時80歳と高齢であったことを踏まえると,本件事故と原告の本件手術後の体力低下及び誤嚥性肺炎の発症との間の因果関係は認められる。

  加えて,上記のとおり,80歳以上の高齢者が,消化器外科手術を受けた場合,ADLの低下による体力の低下,呼吸器合併症の発症等がままあり得ることであることからすれば,その後長期臥床となることも十分に考えられる。

  以上によれば,本件事故と,原告が,本件手術後,体力が低下し,誤嚥性肺炎にり患したために身体機能及びADLの低下が生じ,長期臥床となったこととの間には因果関係は認められる。

弁護士からのコメント

大腸内視鏡による穿孔は,不可避な合併症として扱われることもあり,必ずしも過失があるとはされていませんが,本件では過失に争いがなかったようです。

 本件の先例としての価値は,80歳以上の高齢者が消化器外科手術を受けた場合には,ADLや体力が低下することや呼吸器合併症を発症することにより長期臥床となることがあると認め,長期臥床との因果関係を認めたところにあります。高齢者の場合には,何かと高齢のために寝たきりになったと言われることもありますが,若い方とは異なり,医療事故が契機となって体力が弱ったり誤嚥性肺炎になりやすくなり,寝たきりになることは良くあり,それとの因果関係を認めないことは不合理であると考えられます。
 その意味では本判決は,高齢者において医療事故と長期臥床の因果関係を肯定した点において重要な意味を有するものと思われます。

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