判例集

介護事故

判例情報・出典
東京地裁判決令和元年11月14日 介護施設での放置による転倒事故

神村 岡
弁護士
神村 岡

患者(被害者)の属性

97歳女性

判例要旨

介護老人保健施設に入所していた原告が,施設のトイレ内で放置された際に転倒し,左大腿骨頸部骨折の傷害を負った事故について、トイレ介助中にその場を離れたことについて施設職員の過失を認め、合計607万4700円の限度で請求を認容した。

争点

(1)過失の有無
(2)損害額

重要な判示(過失)

 本件事故が発生した当時,X1は,つかまり立ちや車椅子への移乗動作ができたものの,転倒のおそれがあったため,そうした動作をする際には見守り等が必要であったこと,X1には認知症があり,簡単な受け答えはできたが,短期記憶や認知能力等に問題があり,職員の指示に従い,あるいはX1自身の判断で,転倒しないように適切な行動をとることを期待できる状態にはなかったことが認められるから,被告の職員が,X1の排せつの介助中に同人を便座に座らせた状態で見守りを中断し,X1をその場に一人残して立ち去った場合,排せつを終えた,又は中止したX1が,本件トイレから出るために自力で立ち上がり,車椅子に移乗しようとするなどして,バランスを失って転倒する危険性があったといえる。
 そして,前記認定事実(2)によれば,被告は,上記のようなX1の心身の状態を踏まえて「施設サービス計画書」を策定し,センサーマットを設置するなどの事故防止策をとっていたこと,Bにおいても,X1の家族から話を聞くなどして,X1の心身の状態について認識していたことが認められるから,被告及びBにとって,上記危険性ひいては本件事故の発生について予見可能であったと認めるのが相当である。

 本件事故の態様からすれば,X1は,Bが同人の元を離れた際に,途中で排せつをあきらめて本件トイレから出ようとして転倒し,本件傷害を負ったことがうかがわれるから,被告の職員が,相当時間X1の元を離れることなく同人の見守りを継続していれば,その発生を回避することが可能であったといえる。

 以上によれば,本件事故発生時,Bが,便座に座った状態のX1の見守りを中断して同人をその場に一人にすれば,X1がトイレ内で転倒する危険があることを予見し得たにもかかわらず,センサーコールに対応するために,自らに代わってX1の見守りを継続する職員を確保することなくX1の元を離れたことについて過失が認められる。

重要な判示(因果関係・損害)

後遺障害慰謝料 500万円
 X1は,本件事故前は,通常の車椅子を利用しての生活をしており,ベッドから車椅子への移動は見守りや一部介助があれば自ら行うことができ,排せつも(ズボンの上げ下げについての)介助を伴えば,自ら行うことができたが,本件事故により,移動(車椅子),食事の摂取,排せつ(日中・夜間),入浴,更衣について,全介助又は全面介助(具体的には,日常生活はリクライニング式車椅子の利用,排せつには紙おむつの利用)が必要な状態となったことが認められ,本件事故により,X1の生活レベルは相応に低下したことが認められる。もっとも,X1は,本件事故時において,高齢(97歳)で,既に,要介護は4と認定され,ADLのランクもB2であったこと,滝山病院を退院した後にリクライニング式車椅子の利用が不可欠となるなど日常生活の多くが全介助(全面介助)となったのは(左大腿骨頸部骨折について)保存的治療を選択した結果の疼痛に起因するところが大きいこと等,本件に顕れた一切の事情を踏まえると,後遺障害慰謝料の額は500万円と認めるのが相当である。

弁護士からのコメント

高齢者が転倒した事案では、大腿部頸部骨折はよく見られます。
本件では、股関節の可動域制限など、骨折そのものによる後遺障害は認定されておらず、また後遺障害等級も認定されていませんが、事故前後の本人の様子を詳細に認定した上で後遺障害慰謝料が認定されており、同種事案で損害額を算定する上で参考になります。

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