コラム

市立札幌病院の医療安全委員会に就任してー患者側弁護士が病院の内側から見えたもの

 私(弁護士齋藤健太郎)は、2026年4月から、市立札幌病院の医療安全委員会の委員を務めています。委員は院内の医師や看護師など医療専門職の方々が中心で、弁護士は私一人です。月に一度集まり、院内で生じた個別のケース等について検討し、議論を重ねています。
 普段、私は患者側の代理人として医療訴訟に取り組んでいます。診療記録を読み込み、医学文献を調べ、協力医の意見を聴き、病院側の対応の何が問題だったのかを主張する。そういう仕事です。その私が、病院の内部で医療安全を考える立場に加わることになりました。

【病院側の視点から見えるもの】

 委員会に出席して感じるのは、病院の中から医療安全を考えるという経験が、訴訟の場では見えてこない多くのことを教えてくれるということです。
 委員会では、院内で生じたケースを一つひとつ検討していきます。何が起きたのか、どこに要因があったのか、どうすれば防げたのか。そのうえで、事故の影響度に応じたレベルの判断や、医療事故調査制度に基づく調査の対象となる事案かどうかの検討も行います。事後的な検証という点では訴訟と共通しますが、責任の所在を確定するためではなく、次の事故を防ぐために検証するという点で、目的が異なるところもあります。
 再発防止策を考えるとき、必ず突き当たるのが現実的な制約です。理想を言えば、人員を増やし、最新の機器を導入し、二重三重のチェック体制を敷けばよい。しかし病院の予算には限りがあり、人員の確保にも限界があります。仮に機器を導入できたとしても、それを使いこなす教育の時間をどこから捻出するのか。安全対策が現場の業務量を増やせば、別のところで綻びが生じかねません。マニュアルを作っても現場で守られなければ意味がなく、アラームを増やせばかえって感度が下がる。「あるべき対策」と「実行できる対策」の間にある距離を、当事者の言葉として聞く機会は、訴訟の場ではまずありません。
 訴訟においても、こうした制約が全く考慮されないわけではありません。医療水準は、医療機関の規模、性格、地域における役割などを踏まえて判断されるものであり、大学病院と診療所とで同一の水準が求められるわけではないからです。もっとも、それは当該医療機関に求められる水準そのものを画定する作業であって、水準を満たしていないことを予算や人員の事情によって正当化できるという意味ではありません。実際に安全対策を組み立てる側に立ってみると、その水準を確保するために限られた資源の中で優先順位をどうつけるかという判断の難しさが、切実なものとして見えてきます。

【患者側弁護士を委員に迎えるということ】

 私が就任するにあたって聞いて印象的だったのは、前任の委員も、そのまた前の委員も、いずれも患者側で医療訴訟に取り組んできた弁護士だったということです。
 病院が外部委員として弁護士を招く場合、病院側の代理人を務めている弁護士に依頼するという選択肢もあったはずです。むしろその方が、病院にとっては話が通じやすい面もあるでしょう。しかし市立札幌病院は、そうではなく、患者側の立場で医療事故に向き合ってきた弁護士を委員に据え続けてきました。
 これは、簡単なことではないと思います。患者側弁護士が委員に入るということは、院内の議論に対して、患者やご家族の目線からの問いが突きつけられるということです。「その説明で患者は納得するか」「その記録の書き方で後から検証できるか」「それは患者にとって本当に安全といえるか」。耳の痛い指摘も出るでしょう。それでもなお、そうした視点を組織の内部に取り込もうとする姿勢は、医療安全に対する真摯さの表れだと感じています。
 医療安全は、突き詰めれば患者のためのものです。だからこそ、患者の視点を代弁する立場の者が議論に加わることには、意味があるはずです。

【一つの制約について】

 なお、この立場を引き受けるにあたって、一つの制約が生じています。私は、市立札幌病院を相手方とする医療事件をお受けすることができません。
 医療安全委員会の委員として院内の情報に接する立場にある以上、同じ病院を相手に患者側の代理人を務めることは、利益相反の観点から適切ではないからです。当然のことではありますが、患者側弁護士としては、対応できる事件の範囲が一部狭まることを意味します。
 市立札幌病院での医療事故についてご相談をお考えの方には、この点をあらかじめお伝えしておく必要があります。ご相談自体をお受けできませんので、他の医療事故に詳しい弁護士へのご相談をご検討ください。

【おわりに】

 患者側の代理人として訴訟に取り組むことと、病院の医療安全に内側から関わることは、一見すると相反するようですが、目指すところは同じだと考えています。医療事故を減らし、起きてしまった場合には適切に検証し、次に活かす。その積み重ねが、患者にとっても医療者にとってもより良い医療につながっていくはずです。委員としての経験を、日々の仕事にも還元していきたいと思っています。

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