注射剤によるアナフィラキシー死亡―提言から7年、なぜ繰り返されるのか
注射剤の投与後にアナフィラキシーショックを発症し、患者が死亡する事例が後を絶ちません。
日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は2018年、「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析」と題する提言(第3号)を公表し、12の死亡事例を分析した上で、早期のアドレナリン筋肉内注射の重要性などを指摘しました。ところが、この提言後も同様の死亡事例は止まらず、2025年3月には警鐘レポートNo.2として、提言公表後に新たに19例の死亡が報告されたことが明らかにされています。
また、2022年11月には、愛知県愛西市の新型コロナワクチン集団接種会場で、接種後にアナフィラキシーショックを発症した方が死亡する事故も発生しました。愛西市医療事故調査委員会の報告書は、接種会場における緊急対応体制の不備を詳細に検証しています。
アナフィラキシーというと、蕁麻疹や皮膚の発赤といった皮膚症状を伴うイメージがあると思います。しかし、警鐘レポートが分析した19例のうち、初発症状に皮膚症状がなかった事例が約7割を占めています。最初に現れる症状は「苦しい」「気分不快」「咳嗽」「嘔気」など非特異的なものであり、皮膚症状を待っていては対応が致命的に遅れるということです。
さらに、注射剤投与から初発症状出現までの中央値はわずか2分、初発症状出現から心停止までの中央値は7分と報告されています。つまり、注射から心停止まで10分足らずで進行し得る。この時間的猶予のなさが、アナフィラキシーによる死亡を防ぐことの難しさの本質です。
注射剤によるアナフィラキシー死亡の医療訴訟では、アナフィラキシーの発症自体には過失がないのが通常です。あらゆる薬剤でアナフィラキシーは起こり得るものであり、過去に安全に使用できた薬剤でも発症します。問われるのは、発症後の対応です。
具体的には、アナフィラキシーの可能性を速やかに認識したか、アドレナリンの筋肉内注射を躊躇なく行ったか、アドレナリンが直ちに使用できる場所に配備されていたか、緊急対応の体制が整備されていたか。これらの点が注意義務違反の有無として問われます。
提言第3号が公表されてから7年以上が経過し、警鐘レポートでさらに注意喚起がなされている現在、「知らなかった」「体制が整っていなかった」という弁解は、法的にはますます通用しにくくなっています。提言やガイドラインの存在は、裁判において医療水準を画定する際の重要な根拠となり得るからです。
提言が出され、警鐘が鳴らされ、それでもなお同種の死亡事例が繰り返されている。この現実は重いと言わざるを得ません。造影剤や抗菌薬など、日常的に使用される注射剤による死亡が、アドレナリンの早期投与と適切な緊急対応体制の整備によって防ぎ得るものであるならば、今後さらなる啓発と各医療機関における実践的な研修がなされることを強く期待します。