判例集

医療事故

判例情報・出典
静岡地裁令和3年8月31日判決 認容額2525万円 大腸穿孔の画像所見を見落とした事案

神村 岡
弁護士
神村 岡

患者(被害者)の属性

女性・事故当時82歳 既往症なし、ADL自立

判例要旨

被告法人が設置・運営する被告病院において診察を受けた亡甲の相続人である原告らが、担当医である被告乙は、亡甲を診察した際に消化管穿孔を疑い、直ちに開腹手術等の処置をすべき注意義務があったのに、これを怠り帰宅させたため、その後、亡甲が汎発性腹膜炎及び敗血症に起因した多臓器不全により死亡するに至ったなどと主張して賠償金の支払いを求めた事案において、原告らの請求を一部認容した事例。
認容額:合計約2525万円

争点

(1)医師の過失の有無
(2)医師の過失と患者の死亡との間の因果関係の有無
(3)患者の損害額
(4)過失相殺ないし素因減額の可否

重要な判示(過失)

腹部CT画像において遊離ガスが認められた場合は,消化管穿孔を示唆する重要な所見であるから,積極的に消化管穿孔を疑うべきであり,かつ,消化管穿孔は迅速な治療を必要とすることから,CT画像上の遊離ガスは見逃してはならない。
被告P4は,本件CT画像上の遊離ガスの存在を見逃し,帰宅させた注意義務違反があった。

重要な判示(因果関係・損害)

(因果関係)
医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係については,経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し,医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば,医師の当該不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定される。

被告P4が注意義務を尽くしていれば,亡P5がその死亡時点である平成27年10月26日午後0時52分時点でなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性があった。

(過失相殺及び素因減額)
被告は再受診が遅れたことによる過失相殺およびNOMI(非閉塞性腸管壊死)の素因減額を主張したが,裁判所は、「そもそも亡P5の初診時に被告P4が本件CT画像上の遊離ガスを見逃すことがなければ,原告らが亡P5を再受診させる必要はなかった」として過失相殺を認めず,またNOMIについても「大腸穿孔に起因する全身状態の悪化に伴い発症したものにすぎないから,亡P5自身の素因とは認められない」と素因減額を否定した。

弁護士からのコメント

下部消化管穿孔が生じた場合、便汁が穿孔箇所から腹腔内に流出し、腹腔内が便汁により汚染されて腹膜炎となり、急激に全身状態が悪化する危険があるため、速やかに腹腔内洗浄ドレナージ、腸管吻合等の緊急手術を行う必要があり、時期を逸すれば死亡に直結してしまいます。
他方で、下部消化管穿孔は、CTにより腸管外のフリーエアー像を認めることで診断されますので、患者が腹膜刺激症状を伴う激しい腹痛を訴えている場合には、積極的に下部消化管穿孔を疑い、CTによりフリーエアー像の有無をしっかり確認することが極めて重要です。
救急対応をする医師にとっては、常に念頭に置いておかなければならない緊急性の高い病態といえます。

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