雲南市立病院・肺がん検査結果見落とし―5年の遅延・『読影レポート未確認』問題
【事故の概要】
島根県の雲南市立病院は2026年5月1日、肺がんを患う80代男性について、担当医が2021年の検査結果に記載されていた肺がんの疑いを見落とし、診断と治療が約5年間遅れたと発表しました。男性は2026年春に別の要因で入院中に再検査を行ったところ、がんが判明したとのことです。病院は家族に謝罪し、現在も治療を続けています。
検査結果の見落としによる診断遅延の事例は、各地で繰り返し報じられています。先日も神戸市立医療センター西市民病院で、外傷の診断目的で撮影されたCT画像に映っていたがんを放射線科医が見落とし、約1年5か月後に進行がんとして発見された事例が公表されました。本件はそれと類似の構造を持ちながら、遅延期間が約5年と極めて長い点で深刻です。
報道からは具体的な経緯が明らかではありませんが、「肺がんの疑いを示す検査結果の記載を見落とした」とされているところからすると、放射線科医の読影レポートに肺の異常所見が記載されていたにもかかわらず、主治医がそれを確認せず、必要なフォローアップ検査につながらなかったというパターンが想定されます。これは医療現場で時折生じる典型的な問題類型です。私もこれまでに何件も扱ったことがあります。
CT・MRI等の画像検査では、放射線科医が読影レポートを作成し、依頼元の主治医がそれを確認することで初めて検査結果が患者の診療に反映されます。ところが、外来診療の繁忙の中で、主治医がレポートを十分に確認せず、依頼目的以外の所見が見落とされる事例が後を絶ちません。
この問題は厚生労働省や日本医療機能評価機構も重要課題として注意喚起を繰り返しており、各病院では読影レポートの確認状況を電子カルテで管理するシステムの導入や、緊急性の高い所見を主治医に直接伝達する仕組みの整備が進められています。それでもなお、本件のような長期にわたる見落とし事例が発生していることは、システム整備の難しさを物語っています。
本件で問われる法的論点は、過失と因果関係(損害)の2点に整理できます。
過失については、検査結果に肺がんの疑いを示す記載があったにもかかわらず確認・対応をしなかったことは、注意義務違反として認められやすい類型です。病院側も「ミスがあった」と認めて謝罪しており、過失の存在自体は争いにならないでしょう。
より問題となるのは損害(因果関係)です。仮に2021年の時点で肺がんが発見されていれば、どの程度早期の段階だったのか。その段階で適切な治療を受けていれば、現在と比べてどのような予後が期待できたのか。これらの医学的評価が、損害賠償の中核になります。
肺がんは病期(ステージ)によって治療成績が大きく異なります。最終的にお亡くなりになった場合には、早期発見されていれば手術による根治が期待できたが、5年間の遅延により進行して根治が困難な状態になったということで因果関係が認められる可能性は十分にあります。少なくとも相当程度の可能性はあったものとして相応の賠償が認められるはずです。
80代の男性が、5年も前に「肺がんの疑い」と書かれていた検査結果を放置されていた。ご本人とご家族の心情は察するに余りあります。再発防止策として「確認手順の徹底」が挙げられていますが、見落としを防ぐにはチェック手順の徹底だけでは限界があり、システムによる確実な伝達と確認の仕組みづくりが不可欠です。検査結果の確認という、医療の基本中の基本を支える体制を、各医療機関にあらためて見直してほしいと感じます。