コラム

北海道がんセンター・ロボット手術死亡事故―『術後管理の問題』

【事故の概要】

 国立病院機構北海道がんセンター(札幌市白石区)は2026年5月8日、2022年5月にロボット支援下の前立腺がん手術中、医師の操作誤りにより患者の血管を損傷し、患者が死亡する事故があったと公表しました。
 報道によると、当時70歳の男性患者に対し腹腔鏡手術が行われた際、支援ロボットの遠隔操作を誤って血管を損傷。さらに、術後に血圧低下や出血を確認したにもかかわらず、医師や看護師が適切な処置を行わなかったとされています。ご遺族は同機構を相手取り札幌地裁に損害賠償請求訴訟を提起し、5月7日に和解が成立しました。

【ロボット支援手術と医療事故】

 ダビンチに代表されるロボット支援手術は、低侵襲・高精度の手術として急速に普及しています。前立腺がんの全摘除術は、保険適用の早かった術式で、現在では多くの施設で標準的に行われています。
 ただ、ロボット支援手術にも固有のリスクがあります。術者は患者から離れたコンソールで操作を行うため、触覚のフィードバックが乏しく、視野もカメラを通じた間接的なものに限られます。また、ロボットアームの動きは精緻ですが、いったん操作を誤れば修正が間に合わないこともあります。本件で「遠隔操作を誤り」血管を損傷したという経過は、ロボット支援手術特有のリスクが現実化した事例として捉えるべきでしょう。
 もっとも、術中の血管損傷それ自体は、必ずしも過失と直結するわけではありません。前立腺周囲には複数の重要な血管が密集しており、合併症としての血管損傷は一定の頻度で生じ得ます。問題は、損傷した場合にいかに適切に対応するかです。

【術後管理の決定的な問題】

 本件で過失が問われるべき最も重要な点は、術中の血管損傷そのものよりも、術後の血圧低下と出血を認識しながら適切な処置を行わなかったとされている点です。
 術後の血圧低下と出血は、手術部位からの出血の可能性を強く示唆する所見であり、再開腹・止血を含む緊急対応が検討されるべき状況です。これに対して何ら適切な処置がなされなかったとすれば、それは術中操作の誤り以上に重大な過失といわざるを得ません。
 医療訴訟の経験から言えば、「術中の合併症」よりも「術後の対応の不適切さ」の方が、過失として認められやすい傾向があります。手術中の判断は瞬時のものであり、医学的議論の余地がある一方、術後のバイタル変化への対応は時間的余裕があり、判断の誤りが客観的に評価されやすいからです。本件で和解が成立したことの背景には、術後対応の問題が大きかったことが想像されます。

【4年を経ての公表】
 本件では、2022年5月の事故が4年を経た2026年5月に公表されたとされています。医療機関が最終的に問題を認めるまでにこれほどまでの長期間が経過してしまうのが医療訴訟の現状です。
 本来は、医療事故の透明性は、再発防止のための学習機会の共有という観点からも重要なはずです。「再発防止に向けて全力で取り組む」とのコメントが出されていますが、まずは事故の詳細を医療界全体で共有し、ロボット支援手術中の血管損傷とその後の対応について普遍的な教訓を引き出すことが望まれます。

【おわりに】

 最先端のロボット支援手術であっても、不幸な結果は起こり得ます。重要なのは、起きてしまった合併症にいかに適切に対応できるかです。本件はロボット手術の事故という側面で注目を集めていますが、本質的な教訓は「術後管理の重要性」にあると感じます。前立腺がんの治療を選択される方の多くが、ロボット支援手術を含めた選択肢の中から最適な治療を受けられるよう、各医療機関の体制整備と透明な情報共有を期待したいと思います。

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