コラム

偶発的所見の見落とし-繰り返される問題

【事故の概要】

 神戸市立医療センター西市民病院は、外傷の診断目的で撮影したCT画像上のがんを放射線科医が見落とし、がんが進行して患者が死亡する医療事故があったと発表しました。
 報道によると、70代の女性患者は2024年5月、整形外科を受診し、外傷の診断目的でCT撮影を受けました。頚椎骨折が見つかり、他院で手術を受けています。その後、2025年10月に大量の胸水を契機に再び同院を受診し、肺腺がんと診断されました。この際、2024年5月のCT画像を見直したところ、同じ部位に腫瘤の影が確認され、放射線科医による見落としが発覚したとのことです。
 女性は化学療法を受けましたが手術は困難な状態で、緩和治療に切り替えた後、診断から2か月後の2025年12月に死亡しました。

【「偶発的所見」の見落とし―繰り返される問題】

 本件の核心は、外傷の診断目的で撮影されたCTに映っていた別の異常所見(偶発的所見・incidental finding)を放射線科医が見落としたという点です。
 CTは目的とする部位だけでなく、広範囲の臓器が撮影されます。そのため、本来の撮影目的とは関係のない異常所見が偶然映り込むことは珍しくありません。放射線科医による読影は、撮影目的の所見だけでなく、画像に映った異常所見全般を拾い上げることが期待されています。特にCT画像における腫瘤影の指摘は、放射線科医の最も基本的な業務の一つです。
 このタイプの見落とし事例は全国で繰り返し報告されており、本件に限った話ではありません。しかし、繰り返されているからこそ、個人の注意力に頼る体制の限界が明らかになっているともいえます。

【法的な観点から】

 本件で法的に問題となるのは、読影上の過失因果関係の2点です。
 過失については、CT画像上に腫瘤影が存在し、それが通常の読影で発見できるものであったならば、見落としは注意義務違反として過失が認められます。「外傷目的の撮影だったから肺の腫瘤まで見る義務はなかった」という弁解は、放射線科医が読影レポートを作成する以上、通用しないでしょう。
 通常は、より議論となりうるのは因果関係です。2024年5月の時点でがんが発見されていれば、手術や早期の治療が可能だったかという点になります。この点は、見落とし時点での腫瘍の進行度(ステージ)と、早期発見された場合の治療成績に関する医学的評価が必要になります。肺腺がんは、ステージによっては手術による根治が期待できる一方、発見時に既に進行していれば予後は厳しい。約1年5か月後に手術不能の状態で発見されていることからすれば、早期発見されていれば治療の選択肢が広がっていた可能性は十分にあります。
 全く検査をしていなかった過誤のある症例と異なり、偶発的所見の見落としの場合には、腫瘍その他の情報が多いため、因果関係の議論がしやすいという特徴があります。当事務所でも、複数の偶発的所見の事件を扱っていますが、比較的訴訟前に解決しやすい事件といえるでしょう。

【AI読影支援は解決策になるか】

 病院は再発防止策として「AI読影支援ソフトの更なる活用」を挙げています。AIによる画像診断支援は、偶発的所見の見落とし防止に一定の効果が期待される分野です。また、重要なのは、病院も言及している「読影医と各診療科医師によるダブルチェック」の実質化です。
 さらに、読影レポートの中に記載された所見が主治医に確実に伝達され、必要なフォローアップにつながる仕組みが整っているかどうか。ここが形骸化していれば、いくら読影の精度を上げても患者には届きません。過去には、この伝達がなされなかったり、レポートに記載があるのに見落とした事例も多数存在しています。

【おわりに】

 外傷で病院を受診しただけの患者が、CTに映っていたがんを見落とされ、1年以上経って手遅れの状態で発見される。ご遺族にとっては到底受け入れがたい結果だと思います。
 同種の事案については、画像を含む記録を取得した上で、がんの見落としに関する医療訴訟の経験があり、医師とのネットワークを持つ弁護士に相談されることをお勧めします。特にこの類型では、画像診断が直ちにできる環境が必要です。

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