食道癌ケモラジ後の大量吐血死亡事例―造影CTの読影体制
【事例の概要】
日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業で報告された事例に関するコラムです。
70代男性。進行食道癌に対する化学放射線療法(ケモラジ)後、夜間に自宅で吐血し、午前0時27分に救命救急センターへ搬送されました。来院時はショックバイタルであり、補液の急速静注で対応。午前1時15分に造影CTが施行されましたが、Extravasation sign(造影剤の血管外漏出所見)はないと判断されました。
午前2時23分から緊急内視鏡検査が行われ、中部食道に多量の凝血塊と活動性の出血が確認されましたが、血圧が安定せず、わずか4分後に内視鏡を抜去。SBチューブによる止血を試み、輸血も行われましたが、血圧は回復せず、患者は死亡しました。
後日、放射線科医師が造影CTを読影したところ、中部食道の仮性動脈瘤が指摘されました。搬送時にこれが発見されていれば、IVR(血管内治療)による止血など別の治療戦略があり得ました。しかし、救命救急センターでは自前で造影CTが撮れるため、放射線科医師の読影を経ない運用になっていたとのことです。
【専門医読影を経ない体制の問題】
救命救急の現場で迅速な判断が求められることは言うまでもありません。放射線科医師を深夜に呼び出して読影を待つことが常に現実的とは限らないでしょう。
しかし、進行食道癌のケモラジ後という背景があれば、腫瘍の大血管への浸潤や仮性動脈瘤の形成は臨床的に十分予見可能な合併症ともいえます。このようなハイリスク症例の造影CTを、救急医だけで評価するのには限界があります。改善策として「難しい症例では放射線科医師に読影を依頼する」とされていますが、「難しい症例」かどうかは事後的にしか分からないことも多い。むしろ、ケモラジ後の大量吐血のような病態では、最初から放射線科医師の関与をルール化しておくべきだったのではないかと感じます。
【法的な観点から】
仮にこの事例で損害賠償請求がなされた場合、造影CTの読影に問題がなかったかどうかに加えて、造影CTの読影を放射線科医師に依頼しなかったことが注意義務違反にあたるかが争点となり得ます。読影が難しかったとして、また、救命救急センターの通常運用に従っただけとして過失が否定される余地もありますが、仮性動脈瘤が予見可能な合併症である以上、より慎重な読影や専門的読影を求めるべきだったという主張も成り立ち得ます。
もっとも、因果関係(救命可能性)はより難しい問題となるでしょう。仮性動脈瘤が発見されたとしても、深夜帯にIVRを即座に実施できる体制があったか、そしてIVRで救命できたかは不確実です。ただ、「適切な医療を受ける機会」の喪失に対する賠償―いわゆる相当程度の可能性の侵害―が認められる余地はあると考えます。
【おわりに】
食道癌の大量出血は、どれだけ適切に対応しても救命が困難なケースがあります。ただ、専門家の目を通す機会が制度的に確保されていれば、違う結果があり得たかもしれない。「難しい症例だった」で片付けてはいけない事例だと感じます。