解決タイムライン

弁護士齋藤健太郎が担当した医療事件の判決が『医療判例解説』(医事法令社・令和7年4月発行・114号)に掲載されました。

弁護士齋藤健太郎が担当した神戸地裁令和5年12月14日判決及び大阪高裁令和6年7月5日判決が、医療判例解説という雑誌に掲載されました。

以下、経緯やコメントを記載します(医療事故情報センターのセンターニュースにも同内容が掲載されます)。

脊柱管狭窄症・ヘルニアに対する術前検査としてミエログラフィーを施行したところ穿刺により脊髄損傷が生じ、下肢麻痺等の後遺障害が残存した事案

【患者】86歳・男性(H30.12当時)。手術時の職業:無職
【医療機関】県立病院
【既往症】脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア術後(H28)

《事実経過の概要》
1.    H30.10
腰椎、左下肢痛があり、相手病院受診
腰椎MRI検査の結果、L2の腰椎圧迫骨折及びL3/4の脊柱管狭窄症の診断。
2.    H30.12
   左下肢痛残存、右下肢痛も発症したことから、A医師は、L3/4の腰椎後方進入椎体間固定術(PLIF)を行うこととし、術前評価のため、ミエログラフィー及びCTミエログラフィー(以下、単に「ミエログラフィー」)を実施。
    ミエログラフィーの際、L4/5、L3/4から穿刺を行うも挿入できず、脊髄円錐のあるL1/2に穿刺。患者はミエログラフィー実施中に痛みを訴えて身体を動かす。
   帰室後、患者は左下肢の膝立ができず、指先がわずかに動く程度。膀胱直腸障害も生じ、バルーカテーテルの使用を要することとなった。
3.    H31.2
リハビリテーション病院に転院
4.    R1.5
脊髄円錐損傷による左下肢麻痺及び膀胱直腸障害の後遺障害残存

【主な争点】
1.    A医師がミエログラフィーの際、L1/2に穿刺したことに過失があるか。
2.    説明義務違反の有無。
3.    原告の後遺障害の程度、将来介護費の額。

【訴訟の経過】
1.    R3.10 提訴
2.    R5.4  神戸地裁にて証人尋問(A医師、原告の子)
3.    H30.2.7 第1審判決言渡し 認容額2161万0090円
介護費日額6000円 後遺障害慰謝料1000万円(等級の明示なし)
4.    H30.7.20 控訴審判決→原判決変更・認容額1940万0064円 介護費日額2400円に減額

【コメント】
1.    当方の過失主張について
(1)     ミエログラフィーは、かつては多く行われた検査であるが、近年ではMRI及びMRミエログラフィーにより代替可能であるため、第1選択の検査ではないとされている。
 本件では、ミエログラフィー前に撮影されていたMRIにおいて患者のL1/2に脊髄円錐があることが明らかになっており、同部位の穿刺には高度のリスクがあった。馬尾神経の部位とは異なり、脊髄の部位は一歩間違うと重大な障害が生じるため、よほどの必要性がなければL1/2の穿刺は行うべきではなかった。一方、本件では腰椎MRI検査によりL4神経根圧迫とそれに一致する神経症状があったことから手術に必要な情報は十分に得られていた。その他のL3神経根圧迫等の有無については手術時に確認するので十分であり、非侵襲的なMRミエログラフィーを行う方法もあったことからミエログラフィーの必要性は乏しい事案であった。
(2)     また、このような侵襲性の高い手技を行うのであれば、単にミエログラフィーに関する一般的説明を行うのではなく、患者にL1/2穿刺に関する個別のリスクを十分に説明したうえで再度同意を取るべきであり、説明義務という観点からも重大な問題があったといえる。
(3)     なお、手技上の過失を問題とする余地もあったが、適応や説明の問題の方がより本質的であること、問題を複雑化する可能性があること等から、過失として主張しなかった。

2.    相手の反論及びA医師の証言
(1)     相手病院の反論は、①腰椎MRIによりL4神経根の圧迫とそれに一致する症状はあったが、頭側のL3神経根の圧迫の有無はMRIでは確認できなず、ミエログラフィーの必要性は高かった、②術前のミエログラフィーによって正確な病状把握が可能となり手術時間短縮やリスク低減に資する、③MRミエログラフィーは診断的価値も低く相手病院では行っていないなどというものであった。
 しかし、相手の主張するミエログラフィーの必要性は主として平成28年に行われた前回手術において有効であったことを基礎とするもので、本件手術における具体的必要性の主張は乏しかった。証人尋問においても、A医師は、手術時には外側ヘルニアを確認できないとしつつ、ミエログラフィーでも外側ヘルニアは確認できないと述べたり、外側ヘルニアの確認においてはミエログラフィーよりも椎間板造影や神経根ブロックの方が侵襲性が低く診断的価値が高いことを認めた。結局のところ、相手病院においては、より多くの情報を得るためにルーティンで全例にミエログラフィーを行っていたに過ぎないのではないかと思われた。
 証人尋問の最後に、A医師は、裁判官から事件についてどう思っているのかと問われ「私としてエゴというか、手術する前にやっぱり安心して手術をしたいというようなこともありましたけども、それだけのために患者さんのリスクをしよわせて(ママ)、しかも説明もなしに、こういう事故が起こってしまったことに関しては、非常に○○さんには申し訳ないように思っています」と答えており、実質的には責任を認める発言をしていたのも印象的であった。

3.    判決・和解について
 一審判決及び控訴審判決のいずれにおいても、L1/2穿刺の過失及び説明義務違反が認容された。また、説明義務違反については、仮に説明を受けていれば患者は穿刺に応じなかった可能性が高いという認定がなされており、説明義務違反において全損害との因果関係を肯定した点も評価できる。もっとも、将来介護費用については、自己負担割合分が6年間継続される蓋然性が高いという理由で減額されたが、介護保険給付については将来分を損益相殺的調整の対象としないのが実務的対応であり疑問があった。もっとも、依頼者もこれ以上の長期化を望んでおらず、上訴はしなかった。
 地裁、高裁において何度か有責を前提とした和解勧告があったが、県が頑なに和解に応じないため判決にまで至った。患者は高齢であったため、早期に解決することが望ましかった事案であり、和解に至らなかったことは大変遺憾であった。

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