《産科危機的出血の原因、危険性、対応について》
分娩時あるいは分娩後に、母体が大量出血を来す場合があります。
医療の進歩によって、死亡する事例は減少してきましたが、いまだお産のときの死亡の主要原因の一つとなっています。その原因としては、羊水塞栓症、常位胎盤早期剥離、前置癒着胎盤、弛緩出血、子宮破裂、産道裂傷などが挙げられます。
産科出血の場合、一般手術などにおける出血と比較して、急速に全身状態の悪化を招きやすく、また、容易に「産科 DIC」(播種性血管内凝固症候群)という病態に陥りやすいという特徴があります。
そのため、高次施設や他科と連携をとりながらの特別な対処をしなければなりません。
《産科危機的出血の判断と対応》
出血が続く場合には、産科DICを疑わなければなりません。
「産科DICスコア」というものがあり、そのスコアで8点以上(単独でフィブリノゲン150mg/dL未満)の場合は産科DICと診断し,すみやかに産科危機的出血としてDIC治療を開始するものとされています。
また、外部に出てくる出血量だけでは、実際の出血量が分からないこともありますので、バイタルサインや、ショックインデックス(心拍数/収縮期血圧)を確認することが重要です。色々な対応を行っても、ショックインデックスが1.5以上の場合には、産科危機的出血として緊急治療が必要です。
産科危機的出血と判断された場合、発症した施設が1次施設であれば高次施設へ搬送しなければなりません。また、産科危機的出血では集学的な治療が必要なため、産婦人科医だけでなく、麻酔科医,救命救急医を含めた複数の人員を確保する必要があります。
産科危機的出血・産科DICに対する治療の第1選択は輸血となります。
同時に、原因疾患に合わせて止血のための外科的治療、IVR(動脈塞栓術、バルーン閉鎖術)を試みることになります。
《医療事故になる場合》
基本的には高次医療施設であったかどうかによって対応が異なります。
高次医療施設ではなかった場合には、産科DICスコアや、ショックインデックスなどから産科危機的出血と判断して、高次医療施設に転送すべきですが、早期にそれを行わなかった場合には、医師らに過失が認められることがあります。
高次医療施設においては、適切に産科危機的出血と判断したかどうか、輸血・FFPの投与時期、集学的治療の開始時期などが問題となり、その判断に遅れがあった場合には、医師らに過失が認められることがあります。
《弁護士への相談の重要性》
出産直後に、最愛の妻や子を失い、生まれたばかりの赤ちゃんと残された家族の思いは想像を絶するものがあります。
しかし、医療機関に対して、適切に責任を問い、今後の補償を得るためには、早期に対応していかねばなりません。医療事件に精通した弁護士に早めに相談し、今後の方針を協議しておくこと、医療記録の確保をしておくこと、専門医の意見を確認することがとても重要となります。