《分娩時の低酸素脳症の原因》
胎盤剥離、胎盤の機能不全、臍帯(へその緒)の圧迫・脱出などにより、分娩時に胎児に低酸素脳症が生じることがあります。
その状態に陥ったにもかかわらず対応が遅れると、胎児の状態が段々と悪くなり、最終的には低酸素脳症による脳性麻痺になる場合や死亡する場合があります。
《低酸素状態の把握と対応》
医師・助産師・看護師らは、胎児が機能不全の状態にあるかどうかを確認するために、胎児心拍モニタリング(CTG)による評価を行う必要があります。CTGは、分娩中に胎児の心拍を持続的に監視する方法です。正常な胎児心拍数は110~160 bpmですが、低酸素状態にある場合は心拍数が低下したり、異常な変動が見られます。
CTGにおいて異常が確認された場合には、それを適切に評価して対応することが求められます。産婦人科診療ガイドラインにおいては、CTGの基線や徐脈・頻脈に基づいて、波形のレベルが1〜5段階で示されており、どのように評価し、対応すべきかの指針が示されているため、医師らはそれに従って対応することが求められます。レベル3以上の場合を胎児が健康であることに確信を持てない場合(NRFS)と呼び、胎児機能不全として扱うことになっています。
具体的な対応としては、監視の強化、体位変換や酸素投与などを行う場合もあれば、それでは足りない場合には、急速遂弁として、鉗子分娩や吸引分娩を行うこともあります。さらには、緊急帝王切開を行うべき場合もあります。
《医療事故になる場合》
CTGにおいて異常が確認されているにもかかわらず、医師らが適切な対応を取らずにいたところ、対応が遅れてしまい、その結果、低酸素脳症や死亡に至るという事例が後を絶ちません。
また、それ以外にも新生児仮死の状態で生まれた赤ちゃんに対して、適切な処置を取らなかった場合もあります。
いつの時点でどのような対応をすべきであったかは、弁護士に相談のうえ、産科医療の専門医の意見を得る必要があります。
《産科医療補償制度について》
産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償する制度です。
また、脳性麻痺発症の原因分析を行い、同じような事例の再発防止に資する情報を提供しています。
補償申請ができる期間は満1歳の誕生日から満5歳の誕生日までの間です。ただし、診断が可能な場合は生後6ヶ月以降でも依頼できます。
基本的な認定要件は以下のとおりとなっています。
- 在胎週数28週以上であること
※在胎週数の週数は、妊娠週数の週数と同じです。 - 先天性や新生児期等の要因によらない脳性麻痺であること
※この他、お子様が生後6ヵ月未満で死亡した場合は、補償対象としていません。 - 身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺であること
※補償申請の時点での手帳の取得の有無は、審査の結果には影響しません。
看護・介護のために、一時金600万円と分割金2,400万円(年間120万円を20回給付)、総額3,000万円が補償金として支払われます。
原因分析報告書においては、どのような問題があったのかが記載されることもありますが、完成までには相当の時間を要します。
《弁護士への相談の重要性》
生まれてきた赤ちゃんが亡くなってしまったり、障害が残ってしまったことによる両親の精神的な苦痛は計り知れないものがあります。
しかし、医療機関に対して、適切に責任を問い、今後の補償を得るためには、早期に対応していかねばなりません。医療事件に精通した弁護士に早めに相談し、今後の方針を協議しておくこと、医療記録の確保をしておくこと、専門医の意見を確認することがとても重要となります。