《転倒事故について》
施設内・病院内で転倒するというのはよくある事故です。全ての転倒・転落事故の責任を施設や病院に問えるわけではありませんが,事案によっては,転倒・転落の可能性の評価や予防措置に問題がある場合があり,その場合には施設や病院に賠償責任を求めることができます。
《転倒しやすい場合》
転倒のしやすさについては医学的にも様々な評価がなされておりますが,身体的なものに加えて,薬剤の問題もとても重要です。高齢者の場合には投薬治療を受けていることが多く,服用している薬によってはとても転倒しやすくなります。また,脳梗塞や身体障害などによりバランスが取りにくい状態となっている場合も多く,そのような方の場合にはより注意を要します。
その他の観点から問題になるのが認知症のある方の場合です。たとえば車椅子に座っている方が立ち上がろうとして転倒したり,徘徊しているときに転倒するなどということがあります。
《転倒予防》
施設や病院としては,あまり過度の制限を加えることになると身体拘束になるため,それを回避しつつ予防するというジレンマもありますが,その方の状況に応じた適切な予防措置を取ることが求められます。
ポイントとしては,転倒のしやすさの程度をどの程度把握することができたか,どのような評価を行っていたか,実際に過去に転倒したことはあったか,過去の転倒に対してどう評価し,どのような対応を取っていたかなどという観点から施設や病院に責任がある事案かどうかを検討していくことになるでしょう。
《頭部CT検査をすべき場合か》
転倒事故の場合には,頭部を打ち付けることによる脳挫傷や急性硬膜下血腫が最も危険なリスクになります。そのため,仮に転倒への対応に問題がなかったとしても,転倒後に早期に頭部CTを撮影すべきかどうかが問題になることがあります。CTは出血に対して早期からとても感度が高いので出血の有無はすぐに判断できますが,全例で頭部CTを撮影するわけにもいきません。CTが自分で撮影できる病院を除き,転送しなければならず,夜間の場合にはより問題となります。
そこで,転倒した状況,転倒後の意識状態はどうか,頭痛,嘔吐,麻痺はないか,出血しやすい薬を飲んでいるかなどを踏まえて判断することになります。軽症頭部患者についてどのような場合にCTを撮るかについては臨床的にもいくつかの基準やガイドラインがあります。高齢者で認知症の場合には転倒時の状況がよくわからないことも多く,その点を踏まえた判断が求められます。
《救命可能性・後遺症が残らない可能性》
相手からは転倒予防をしたとしても転倒が防げなかったと反論されることや,CT検査をして手術がなされても後遺症は残ったなどという反論がされることが考えられます。それに対しては,適切な予防措置を取れば救命できたことや,医学的な観点から後遺症が残らなかった可能性を詳しく主張していくことが求められます。