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医療事故

高次脳機能障害の難しさについて

齋藤 健太郎
弁護士
齋藤 健太郎

《高次脳機能障害への理解は進んだが・・・》

一昔前は,高次脳機能障害という言葉すらなく,脳外傷のあとに生じる脳機能の低下や人格変化などに適切な対応がなされていませんでした。また,事故のせいかどうかがわからないまま時間が経過することも多く,かなり時間が経ってから,家族が事故前との変化からやはりおかしいと考えて,ようやく判明するということもありました。

現在では次第に高次脳機能障害(意外と正確に言えない人が多いですが・・・)について認識がされるようになり,交通事故でも労災でも認定基準も明確にされつつあり,医療者も事故後の場合には意識して診察するようになりました。また,主にリハビリテーション科など,高次脳機能障害を扱う科も充実しており,そのサポートも受けられるようになっています。

しかし,それでもなお,高次脳機能障害は難しい病態です。それは,第1に,事故の場合の主たる原因となるびまん性軸索損傷が,本来的にMRI等の画像所見に表れるとは限らないということにあります。たとえば,脳挫傷の所見や脳出血の所見などはMRIやCTの画像で明瞭に描出されることが多いのですが,それはあくまで局所的な損傷を表現しているだけで,びまん性軸索損傷そのものを示すものではありません。微少出血については,びまん性軸索損傷を表すとされることもありますが,これが見られない例も多数あるようです。

そうなるとやはり事故前後の変化や神経心理学的検査に頼らざるを得ませんが,そこには主観的な判断がどうしても入りますし,少なくとも画像のような客観性をどのように見いだしていくかという点において難しさが出てくるのです。

《MTBI(軽度外傷性能損傷)について》

事故直後の意識障害や画像所見に乏しい事例については,MTBI(軽度外傷性能損傷)などと呼ばれることがあります。そのような症例については,これまでもどのように認定していくかが議論されてきましたが,やはり画像所見が明確ではないということで自賠責や労災での認定は受けられないことが多いといえます。

SPECT検査という新しい検査による脳損傷の客観化も進んでいるようですが,自賠責ではまだ時期尚早として認定根拠とはされていません。そうなってくると,やはり裁判の場で,裁判官の事実認定のもと,高次脳機能障害を負ったのかどうかを判断してもらうほかないというのが現状です。

このような観点から画像所見などに乏しい高次脳機能障害を後遺障害として認定した裁判例として,東京高判平成22年9月9日,名古屋地判平成22年7月30日,京都地判平成平成27年5月18日,大阪高判平成28年3月24日などがあります。

《弁護士の対応》

もちろん,意識障害や画像所見があっても,その程度については争われることが多く,そういう事例も含めて弁護士の役割は非常に重要になります。

まずは画像所見の解釈が争われることも多いので,放射線科専門医の力を借りて,しっかりと立証していかなければなりません。そもそも画像所見は全てを表現しているわけではないということも理解してもらう必要があります。
また,意識障害の有無についても救急搬送記録や医療記録から丁寧な立証が求められるのは当然です。

実際の高次脳機能障害の程度については,生活状況を的確に説明し,その生活における不利益を十分に伝えていかねばなりません。

もし,精神疾患であるかのような反論が相手からなされるのであれば,精神科への受診や,入院による精査が必要なこともあります。そこで適切な医療機関への受診を勧めるのも弁護士の重要な役割といえるでしょう。

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